DXは一人にして成らず~社内人材の活用と経営陣の意識改革~

新卒以来、リクルートや採用系スタートアップの役員としてのご経験から、ご自身の「志」の下に社会に変革をもたらす経営者・リーダーをプロデュースする経営者JPを創業された株式会社 経営者JPの代表取締役社長・CEO 井上和幸様に、今の製造業が直面する課題を解決するリーダー人材・組織づくりについてお話を伺いました。

今回はDXに焦点を置き、求められるリーダー人材・組織づくりを紹介します。DXはデジタル主体とならず、事業を理解したリーダーも踏まえてアジャイル的に進めていく必要があります。このためには、人材だけでなく経営陣の意識改革も必要です。

目次

  1. 最初からパーフェクトなシステムは構築できない
  2. 2人のトップとそれぞれの役割
  3. プロフィール

最初からパーフェクトなシステムは構築できない

もう一つ、時代の変革で大きく変わった点といえば、情報技術です。この辺りはテクノロジーベースで累進的に変わってきました。特に今の若い方は社会の生活が変わるぐらいデジタルが組み込まれているかと思います。

現在、日本の製造業もDX(デジタルトランスフォーメーション)を進める中で、なかなかリーダーとなる人材がいないという話を聞いています。製造業はこうしたDXリーダーを確保できているのか、またどういった方々が求められているか、井上様のご視点・ご経験の中で何かございましたら教えていただけますか。

外部採用のご依頼は非常に多いですね。確保できているかというと、できてはいないと思います。

いろいろな要因があると思いますが、まず製造業の中に入ってDXのリーダーシップを本当の意味で発揮できるリーダー人材がいるかというと、まだそういった経験を積んでいる方が少ないのも事実です。

そうすると今まで社内にいた人材の延長線上ではない、他に求めるものがあるというイメージですか。

前回の話の繰り返しになりますが、社内の方が全部駄目とは思っていません。例えばレガシーシステムを何とかしたい、というご相談を、製造業に限らず経営者の方からいただくことが多いです。

そこで最も多い流れとして、「こうしたDXを推進してくれる責任者としてCDO(チーフデジタルオフィサー)を採用したい」という話になります。

また別の話としては、コンサルティングファームに発注して協力してもらうことも増えていますね。ただ、いざローンチが近づいてみると、もともとのイメージとは異なり、改修のために膨大な追加費用がかかって炎上してしまうという話も聞きます。

どちらのパターンにしても、特に今の局面ではラーニングしていかなきゃいけないところがあると思います。日本企業は最初からパーフェクトなシステムを導入するところから入りがちですが、こうした企業側の発想を変えないとなかなかうまくいかないと思います。DXリーダーは粘り強くアジャイルに進めていかなくてはいけませんが、これはそのリーダーだけに言ってもかわいそうですので、こうした前提を経営陣が作ってあげないといけないと思います。

同じ部分でのDXを経験した人はほとんどいませんから、最初からパーフェクトなものが簡単にできると思わず、PDCAを回しながら、作り、磨き上げていくという粘り腰の構えを、経営側もちゃんと持つことが大事なのではないかと感じます。

今までみたいに前例を踏襲して成功するのではなく、答えがないところで走りながら作ることになりますね。この場合、最初に立てた全体計画通りに進んでいるかのマネジメントではなくて、常に変わり続けている動的なものとして捉える必要がありますね。

もともとウォーターフォール型の開発として、まず設計をしっかり決めてそこから完璧な絵を作って進めるやり方が、日本企業では多かったと思います。ただし、これが適さないというのは、ネットの時代になってからずっといわれてきていることかと思います。

DXは一人にして成らず~社内人材の活用と経営陣の意識改革~

もちろんウォーターフォールはやめて全てアジャイルへ転換する、ということではないと思います。ただし、ネットの世界でよくいわれる「永遠のベータ版」といった考え方を製造業はもっと取り入れていかないと、時代にはキャッチアップできないのではないかと思います。

そういったマネジメントやリーディングができる人材に対して、見るべきKPIや評価も変えていかないといけませんね。

2人のトップとそれぞれの役割

一方で、全部が変わるのではなくて従来の製造業がやってきたマネジメントも必要となると、両方の価値観が混在することになりますね。

どの部分のDXかによって異なりますが、仮にそのメーカーの一番コアな部分のDXでいえば、もともとその企業にいる方にしかできないと私は思います。ちゃんと自社の、いろいろな意味でのバリューチェーンや工程、要点が分かっている人がやるべきだと思います。

ただ、その方が全体を見るのと同時にDX人材としての側面を求めるのではなく、その方をサポートするマネジメントとして、テック部分の知見や開発に関してのノウハウをお持ちの方をちゃんと入れないといけないと思います。

こうした組み合わせをちゃんと作っていくのが最適解だと思います。

製造業のある分野の経験値や独自のノウハウ、ビジネスの理解と、新しいテック的な技術やデジタル技術、外部の他の技術を組み合わせて統合するという力が必要ですね。

その両方を兼ねている人材がいれば理想ですが、今はまだなかなかいないと思いますので、その2人の組み合わせのDXトップマネジメントチームを作っていただくのが一番良いと思います。

Appleのスティーブ=ジョブズ氏は、創業当時はデザイン部門とエレキを作る部門がコンフリクトしている間に立って、両方から嫌われながらも、両面のプロフェッショナルを率いて統合的な意思決定していたそうですね。

デザイン部門のアイブ氏は非常にセンスが良い方と聞いていますが、大事なことは、アイブ氏を主にしたことですね。

というのも、製造業でいうところのビジネスが分かっている方を主にしたとき、技術側は「こんな躯体(くたい)の中に全部入るわけがない」などと言いますよね。ビジネスの方を主にしながらちゃんと技術的フィードバックを受けて、折り合いをつけていく必要がありますが、技術側を優先したらこんなかっこいいものはできなかったと思います。厚さが出てしまうとか、熱が逃がすためのファンが入るとか、もともと目指していた姿とはかけ離れたものになりますよね。日本製品はそういった製品が多いと思います。

それはビジネスという意味でいうと、あまりそのモデルが変わらずに、技術イノベーションや製品イノベーションのアップデートだけで進めてきたところから、これからビジネス事業構想がまず主体であって、それに必要な製品とか考え方の順番が変わるということですね。

完成品メーカーでも部品メーカーでも、まず一番大事なのはその会社が提供しているものが何かということと、それはどういうふうにして提供しているのかという大きな部分は絶対外してはいけないと思います。だからここは熟知していないといけません。

ただ外部からイノベーター的な技術リーダーが入る良さとして、イノベーションでよく起こる、業界経験やその会社での経験がない故のフラットな視点があります

なぜこの工程が必要なのか、なぜこれをやるためにこういう会議体で決めているのかといった、無意識のバイアスを外して本質的なところに疑問を持つことから、特にDXの世界におけるイノベーションのヒントは出るといった話をよく聞きます。

そうすると、内部で育ってきたリーダーはまさにその事業を経験しているので、そこに対して問われれば解が出せますし、外部から入ってくるリーダーは、業界の当たり前に対してビジネスの視点で疑問を持てます。その組み合わせがあると非常に良いということでしょうか。

現状を見るとそういう組み合わせを作ることが一番求めているものに近づきやすいですし、そういったフォーメーションなら構築できるのではないかと思います。

公開済
第1回「リーダー人材・組織づくりのプロフェッショナルに聞く、現在の製造業の人材動向
第2回「大手vs中小企業、国内vs海外市場...日本製造業の課題とは?

次回
第4回「ジョブ型雇用はもうすぐ終わる?今、必要な組織デザインとは」
第5回「日本製造業のゲームチェンジに必要な『経営者力』」
第6回「『この指とまれ』でつながるイノベーション」

※第4回以降はCollaborative DXサイトにて会員限定公開となっております
※文中の組織名や氏名、肩書きなどはすべて元記事掲載時のものです

プロフィール

井上 和幸(いのうえ かずゆき)
株式会社経営者JP
代表取締役社長・CEO

井上 和幸(いのうえ かずゆき)

1966年群馬県生まれ。1989年早稲田大学政治経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。人材開発部、広報室、学び事業部企画室・インターネット推進室を経て、2000年に人材コンサルティング会社に転職、取締役就任。2004年より株式会社リクルート・エックス(2006年に社名変更、現・リクルートエグゼクティブエージェント)。エグゼクティブコンサルタント、事業企画室長を経て、マネージングディレクターに就任。
2010年2月に株式会社 経営者JPを設立(2010年4月創業)、代表取締役社長・CEOに就任。経営者の人材・組織戦略顧問を務める。企業の経営人材採用支援・転職支援、経営組織コンサルティング、経営人材育成プログラムを提供している。人材コンサルタントとして「経営者力」「リーダーシップ力」「キャリア力」「転職力」を劇的に高める【成功方程式】の追究と伝道をライフワークとする。 実例・実践例から導き出された公式を、論理的に分かりやすく伝えながら、クライアントである企業・個人の個々の状況を的確に捉えた、スピーディなコンサルティング提供力に定評がある。自ら2万名超の経営者・経営幹部と対面してきた実績・実体験を持つ。
日本経済新聞、日刊工業新聞、プレシデント、AERA等様々なメディアへの取材・コメント・出演実績のほか、主な著書として 『社長になる人の条件』(日本実業出版社)、 『ビジネスモデル×仕事術』(共著、日本実業出版社)、 『プロフェッショナルリーダーの教科書』(共著、東洋経済新報社)等がある。

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