フルノは、2023年12月13〜15日に東京ビックサイトで開催された「第8回 JAPAN BUILD TOKYO -建築の先端技術展-」に出展し、当社ブース内で3日間にわたり「建設DXセミナー」を開催しました。建設DX Journalでは、そのセミナーのダイジェストを紹介します。
今回は、作業員や重機と言ったモノの位置情報データがテーマです。将来、建設業を含む全てのサービス事業において、位置情報データは欠かせないものになってきます。セミナーでは、一般社団法人LBMA Japan 代表理事 川島 邦之氏が「位置情報データ利活用で事業を可視化する」をテーマにセンシング技術の進化やデータ活用による業務の効率化、ロケーションプライバシー推進活動について紹介しました。
データ活用からみる5つのビジネストレンド
ロケーションAIの実用化によるユースケースの拡大
Chat GPTに代表される生成AIが利用できるようになり、その分析に有効なデータとして位置情報データが急速に注目されるようになりました。また、位置情報データを活用したAI研究も進み、以下のようにあらゆる面でAIの活用が広がっています。
・人流予測
・人流可視化
・人流予測精度やセキュリティ向上など
観光データ需要の急増とインバウンド復活
新型コロナウイルス感染症が5類に移行され、国内の観光需要が一気に高まりました。また外国人観光客(インバウンド)が急速に復活したことも相まって、観光客に関する以下を目的とした位置情報データの活用が進んでいます。
・回遊状況把握
・混雑回避
・集客
オルタナティブデータにおける位置情報データ利用の本格化
公的統計などのデータに対し、技術の進歩により民間企業が提供できるデータの幅や質が大幅に高まりました。その結果、以下の情報を提供するデータプロバイダが増えています。
・位置情報データ
・決済データ
・TV視聴データ
・店舗データ
・天候データ
・SNSデータなど
とくに位置情報データと他データとの組み合わせにより、企業の売上予想や金融機関における株価予測などへの応用範囲が大きく広がりました。
スマートシティーでGXが必須要件に
「GX(Green Transformation)」とは、脱炭素社会を目指す取り組みを通じ、経済社会システムを変革させ持続可能な成長を目指す取り組みのことです。2022年12月に内閣官房が提示した「GX実現に向けた基本方針(案)」により各社の取り組みが急速に進みました。とくにスマートシティーではDXに加えてGXが必須要件として盛り込まれつつあります。今後は以下の事例創出が期待されるでしょう。
・位置情報データに基づくCO2排出量推計
・屋内人流による空調AI管理など
モビリティ分野における利用用途の多様化
モビリティ分野は、マイクロモビリティサービス(通常の自動車よりもコンパクトな乗り物)の発展や自動運転サービスの実験が進んでおり、今後大きな発展が見込まれます。そのため、位置情報データには、リアルタイム・高精度であることが求められます。今後は以下の展開が予想されるでしょう。
・地図や車流データとの組み合わせによるレコメンド
・AIによる事故検知
・交通最適化など
センシング技術の進化によるデータ活用
センシング技術の進化によるデータ活用と業務の効率化について解説します。
センシング技術の進化
今年、もっとも伸びた分野はIoTや屋内センシング技術です。センシング技術とは、モノや環境のさまざまな状況を計測して数値化することを指します。伝達したり、モノを制御したりするために使われる技術です。
センシング技術が大きく注目されるようになったのは「モノのインターネット」であるIoTの普及がきっかけです。IoTは赤外線カメラや温度センサーなどあらゆる分野で利用されています。
IoTや屋内センシング技術の進化に伴い、施設内、建築現場のリアルタイムデータ化・可視化など活用が広がりました。
センシング技術については、以下のようにさまざまな技術の実装化が進んでいます。
・BLEビーコン
・BLE AoA
・UWB(ウルトラワイドバンド)
・超音波センシング
・RFID
・Wi-Fiセンシング
・地磁気センシング
・カメラ認識
・音声認識
GPSを含む広域分析との組み合わせによって、現場内のデータのみでなく、以下のような近隣広域での人流・物流データの可視化が可能です。それにより、たとえば滞在10秒以上の人に対してアラートを出し作業工程の指示を出すなどが実施できます。
・平均滞在時間
・担当者の作業時間の測定
・機器・備品の正確な位置測位
以前は建物が建った後にセンサーを取りつけるのが一般的でした。しかし後からセンサーをつけるのは技術的にも大変ですし、コストもかかります。そこで、現在は建物を建てる段階でインフラ設備としてセンサーを設置するのが主流になっています。
データ活用による業務の効率化
現場がデータ化されることで、業務の効率化を定量的にAI分析できるなど、改善の提案が実施できます。その結果、安全管理への活用が広がっていきます。
例として、POSデータとの組み合わせによって、顧客の購買行動を可視化することで、最適な施策を打ち出すための指標化や、リテールマーケティングにも展開できます。リテールマーケティングとは、商品の仕入れや物流、販売などを効果的に行う手法です。
商品管理では、カメラとセンサーで把握した来店者の性別や推定年齢などの情報をデータ化し、顧客の好みに合った商品を提案できます。
今後、こういった事例活用に応じて、センシングデバイスが建物自体に実装されていくことが必要です。センシング技術の進化によって、今後はよりスマートシティー化につながっていくでしょう。
ロケーションプライバシー推進活動
位置情報データは個人情報である場合と個人情報でない場合があります。実際に特定の個人を識別できる場合、それは個人情報になります。一方、「セミナー会場の中に5000人います」という情報は、特定の個人を指していないため個人情報ではありません。
新たなイノベーションを生み出したり、よりパーソナライズなサービスを行ったりするためには、個人情報をしっかりと管理することが必要です。また、利用についての同意を利用者から取得し、明確に「どうやって使うか」を伝えることが求められます。
たとえば社内で個人情報を活用し、それを社員が使う場合、会社が保管している個人情報を「どんな目的でどのように使うのか」を明確に説明する必要があります。
個人情報保護法だけではなく、2023年には電気通信事業法も改正されました。以下のようなオンラインサービスの提供者は電気通信事業法の範疇に入ります。
・メッセージ媒介サービス
・SNS
・検索サービス
・ホームページの運営(ニュースサイト、まとめサイト等各種情報のオンライン提供)
改正電気通信事業法第27条の12では外部送信規律について次のように定めています。
利用者の意思によらず第三者に利用者に関する情報を送信している場合、「何の目的で、どんな情報を誰に対して送信し、送信先では何に使われるか」を通知または公表しなくてはなりません。
LBMA Japanは総務省より「認定個人情報保護団体」として認定されました。位置情報データと個人情報の取り扱いについて事業者向け共通ガイドラインを策定しています。
ロケーションデータに関しては「個人情報である・ない」にかかわらず、非常にセンシティブなデータであることに変わりはありません。ガイドラインでは「位置情報データに関しどのような管理を行っていくべきか」について、しっかりとフォローアップしています。
また、ロケーションプライバシー認定制度を設け、組織向けには「LPマーク」、個人向けには「LPコンサルタント」を認定しています。ガイドラインに準拠し、プライバシーに配慮した適切なガバナンスを行っている個人や組織を認定する制度です。
位置情報データから見る今後のビジネスのトレンドについて解説しました。今後は建築業界においても、位置情報データを活用した分析によって、新たなビジネスモデルの創出が実現されていくでしょう。
一般社団法人LBMA Japan ホームページ
https://www.lbmajapan.com/
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