DX(デジタル・トランスフォーメーション)とは、ITツールやデジタルテクノロジーを活用して、企業文化やビジネスモデル等を変革させ、人々に新たな顧客価値を届けることを意味します。昨今、日本でも大企業を中心にDXの営みが加速しています。またグローバルに目を向けると、過去から日本の大企業以上にDXに注力するグローバル企業が多数存在しています。その中心となる会社の1つがAmazon.com, Inc(以下、Amazonとします。)です。ここではどの企業よりも積極的にDXを進め、人々に新たな顧客価値を提供し続けているAmazonのDX成功事例について解説します。
Amazonが標榜する理念とは
まず初めにAmazonとはどういう会社なのかを紹介するにあたって、Amazonが掲げる理念を紹介します。Amazonが掲げる理念は「地球上で最もお客様を大切にする企業、そして地球上で最高の雇用主となり、地球上で最も安全な職場を提供すること」です。また、Amazonは4つの理念を指針としています。
- お客様を起点とすること
- 創造への情熱
- 優れた運営へのこだわり
- 長期的な発想
上記4つの理念からもAmazonがいかにお客様を大切にしているかが分かります。またAmazonは同社のサービスを根幹から支える従業員の採用、育成、そして価値観の醸成にも力を入れています。一例をあげますと、同社が行動指針として掲げる「リーダーシップ・プリンシプル」では、Amazonで働く全従業員が会社のリーダー(オーナー的存在)として位置づけられ、継続的にイノベーションを生み出すことを求められます。プリンシプルの細目の一つ、Think Big(シンク・ビッグ)では、リーダーは広域かつ大胆な意思決定を行うことができ、顧客のためにあらゆる可能性の模索と実行が許容されており、Amazonという会社が従業員の積極的な挑戦を促していることが垣間見れます。
少し横道に逸れますが、弊社では新しいデジタルサービスの展開、そしてそれらサービスが広がりを見せることを「攻めのDX」と呼んでいます。また新しいデジタル技術を活用しながら社内の業務効率化、組織効率化、スリム化を実現することを「守りのDX」と呼んでいます。Amazonは、この攻めのDX、守りのDXどちらにも注力している会社ではありますが、弊社の考察としては、特に「攻めのDX」に強い会社だと認識しています。後述しますが、新しいサービスを展開するにあたり、お客様のニーズをしっかりと探索・分析し、新しいデジタル技術や人財に果敢に投資を行い、商品やサービスに上手く取り込むケースが非常に多いからです。次章では、Amazonがどのような攻めのDXを行っているのか見ていきます。
Amazonが行う攻めのDX4選
Amazonは新市場を開拓するために、様々な挑戦を行っています。本記事では特に攻めのDXに該当するような新しいデジタルサービスについて紹介していきます。
Amazon Echo(アマゾン・エコー)
Amazon Echoを使うことで、手が離せないときにも音声(人の声)だけでデリバリー注文ができたり、YouTubeアプリを開き、ミュージックを再生したり、タイマーやアラームを掛けることができるようになりました。今では当たり前のように使われていますが、Amazon Echoが登場する前は、音声技術の精度が今ほど良くなかったため、家庭などで音声系のシステムが導入されることはほとんどありませんでした。Amazonは音声というデジタル技術に着目し、いち早く研究開発を行い、市場を席捲しつつあるのです。
AmazonGO(アマゾン・ゴー)
Amazon Goは、2016年12月に新しい試みとして発表された無人店舗です。Amazon Goはスマホアプリで入店に必要なバーコードを表示させ、入り口の特殊ゲートにかざし、入店を可能にします。入店後、置かれた商品を手に取ると商品棚に設置された赤外線、圧力、重量センサー技術等が組み込まれた店舗内AIカメラなどが自動で分析を行い、手に取った商品を特定、しスマホアプリのカートに追加していきます。買いたいものをカートに入れた後、そのまま店舗から出ると、自動購入した商品分が事前登録されたクレジットカードから引き落しされます。
自動購入・自動決済に特化したAmazon Goですが、これまでAmazonが研究開発してきたAI技術の大半が活用されており、新たな価値を提供していることから大きな話題となっています。これまでコンビニエンスストアやスーパーマーケットなどで買い物をする顧客はレジに並び、会計を行わなければなりませんでした。しかし、Amazon Goが導入された店舗ではレジ打ち業務が無くなり、アルバイトやパートの人件費が削減されるとともに、お客様には列に並ばずにスムーズに買い物を可能にする新しいUX(ユーザエクスペリエンス:顧客体験)を与えることになりました。
現在の実運用上では、陳列作業の人手に悩まされている面もあるそうですが、無人化の試みとしては画期的なサービスであり、攻撃的DXの一つと言えるでしょう。
Amazon Prime Now(アマゾン・プライム・ナウ)
こちらはAmazon Prime会員専用のデリバリーサービスであり、特定の商品、特定の地域に限り最短1時間で商品を提供するサービスです。有料なら1時間、無料サービスなら2時間で商品を配達地に送ることができます。商品の配送は対象エリア近隣にある配送センターの専用配送員が担当します。2023年3月時点、日本ではAmazon Prime Nowはすでにサービスを終了となっていますが、代わりに最短2時間で生鮮食品を届けるAmazon フレッシュというネットスーパーを中心にサービスが広がりつつあります。日本国内において、Amazon Prime Nowが流行しなかった理由は、やはりコンビニストアの存在が大きいでしょう。米国や欧州と異なり、日本にはあらゆるところにセブンイレブンやローソン、ファミリーマートが点在しています。到着まで数時間かかるのであればコンビニエンスストアまで歩いて買いに行った方が早いのです。米国ではコンビニエンスストアまで車で数十分かかることが普通です。そのような状況であれば、Amazon Primeの会員になり、デリバリースタッフに商品を届けてもらった方が効率的ということになるのでしょう。
話を本題に戻します。このAmazon Prime Nowが世の中に影響を与えた点はやはり配達速度の速さでしょう。これまで物流業界では最短翌日配送というのは当たり前でした。しかし、Amazon Prime Nowではこれまでの常識を打ち破り最短1時間という速さでの配達を可能にしました。顧客は注文した商品がこれまでにない速さで届くという新たな顧客体験を得ることになり、物流業界にも大きな影響を与えました。
GeNEE_Amazonフルフィルメントセンター
FBA(フルフィルメント・バイ・アマゾン)
これまでは、Amazonを利用するユーザー視点で考えられてきたサービスでした。しかし、Amazonには、Amazonに出品する出品者に対してサービスを提供するという視点もあります。FBA(フルフィルメント・バイ・アマゾンの略称です。)は出品者に対して新しい顧客価値を与えたサービスになります。
FBAとは出品者に対して配送代行などのサービスを提供してくれます。例えば、在庫の保管や注文内容を確認したピッキング、梱包対応や納品書の同封、宛名を記載して注文者に送付をする、このような作業をすべてAmazonが引き受けてくれるのです。また、24時間365日対応可能であり、FBAに登録した商品はPrimeマークをつけることができ、カートの獲得確立が上がります。またマルチチャネルサービスというものもあり、他のECサイトで入った注文をAmazon専用倉庫から出庫することも可能です。
このように様々なサービスを提供しているFBAですが、在庫管理をAmazonで一括するというのは大きな変化を与えました。これまでは総合ECサイトの場合、各ショップごとに在庫を管理していましたが、FBAの台頭により、Amazonで一元管理し、迅速に購入者に商品を提供するという新たな物流モデルを築いたと言えるでしょう。
Amazonが攻めのDXで成功している理由
AmazongaDXで成功する理由は様々です。その中でも特に重要と思われる要素を2つ紹介します。
前例のないことへの積極的な研究投資
Amazonは前例の無い物事に対して積極的に取り組んでいて、莫大な研究費用を新しいビジネスモデル開発に投じています。日本の大企業は利益剰余金を貯め込み、時折ニュース等でも報道がなされていますが、真のDXを成功させるためには、やはり惜しみない努力、そして積極的な投資が必要になります。
失敗を許容する社風・文化
冒頭でも少し触れましたが、Amazonにはリーダーシップ・プリンシプルという行動指針があります。その中には、「ビジネスにおいては巧遅拙速(スピード)が重要」、「何事においても妥協せずに高い水準を目指すこと」、「貪欲に学び積極的に挑戦すること」などが記述されています。また「新しいサービスやアイデアを普及させる際、それらが長期間にわたって外部の理解が得られなかったとしても受け入れる」といった会社の寛容的な姿勢も明文化されています。DXは正解があるものではありません。試行錯誤しながら体現していくものです。Amazonは10年、20年といった長いスパンをかけて、失敗を許容する社風・文化を社内の深部まで浸透させてきたと考えます。
投資対効果分析の正確性と迅速な経営判断
ただ闇雲に研究投資を行い、失敗を許容していてもDXの成功に近づくことができません。Amazonは投資対効果の分析を緻密に実施しながら迅速な経営判断を行っています。各プロジェクトを必要なタイミングで徹底的に検証・評価し、想定リターンが得られないプロジェクトからはプロジェクト開始前に定めた基準に従って撤退し、一定の基準値を満たすプロジェクトには更なる追加投資を行ってスケール(規模拡大)を目指しているのです。分析や検証、評価の速さ、そして明確な撤退基準を設定することが、Amazonの迅速な経営判断を支えていると考えます。
Amazonから学ぶDXとは
日本のメディアがDXと騒ぐ前からAmazonは様々なDXプロジェクトを成功させています。そこから学べることは以下のようなことなのではないでしょうか。
一番面倒な会社の土壌作りに真剣に向き合えるか
DX化を成功させるためには、地道な土壌作りが大切です。会社の状況によっては、理念を見直し、行動指針を立て直し、新しい技術と向き合い、従業員の理解を得なければなりません。一朝一夕で完了できるものではないのです。しかしながらAmazonのようなグローバル企業はこれらの地道な努力を怠らず、現在のポジションを築いているのです。経済産業省が警鐘を鳴らすように、数年後、日本は「2025年の崖」に直面します。既に行動している会社もあれば、「なんだかんだ何とかなるだろう。」と考える会社経営者も多数いらっしゃいます。「アリとキリギリス」の童話のように、地道な努力を続けている会社こそが今後も生き残り続けると思料します。
顧客体験を向上させるための大量の仕掛け
2つ目が顧客体験を向上するための仕掛けについてです。今回、紹介したAmazonのDXはすべてこれまでにない画期的な顧客体験を提供しており、サービスを利用する顧客目線で見ると、非常に魅力的なばかりだったかと思います。企業理念に「顧客視点」を標榜するように、Amazonは顧客が求めているもの、感じているペイン(痛み)に真正面から対峙しています。またそれらの裏付け根拠となるデータを取得するために、最先端の技術(AIカメラ、センサー技術、クラウドサービス、IoT重量計など)を駆使し、速度感を持ってビックデータ解析を行い、顧客が今求めているものは何かを定量的に把握しているのです。質問紙調査やインタビュー調査だけでなく、あらゆるところに顧客接点(仕掛け)を作り、データをかき集め、そこから最適解を導出するところにAmazonの本質的な強さがあるはずです。
明瞭な投資対効果分析、撤退基準の設定ができるか
3つ目が投資対効果の分析です。企業として活動していくためには財務体力が非常に重要になります。各プロジェクトに対する投資をROIの観点からしっかりと分析・検証・評価します。ただ数値的な把握をするのではなく、市場動向や定性的評価(例えば、サービスの新規性、斬新さ、ユーザ反応など)といったあらゆる指標を見ながら今後の行く末を決定します。ここでも役に立つのがAmazonが大量に蓄積するビックデータです。データがあるからこそ、サービスの将来性が見えますし、次なる意思決定がしやすくなるのです。日本ではまだデータ経営が進んでいるとは言えない状況です。現状どのようなデータが会社内部に蓄積されていて、どのようなデータが取得できていないのか、またどうすれば未取得のデータを収集できるのか、などから検討することをお勧めします。
まとめ
本記事では、AmazonのDX事例やDXに成功した理由などを解説しました。AmazonはDXに力を入れている企業としては世界有数の企業です。ぜひ、Amazonの成功体験をもとに自社の新たなDXを検討してみてください。
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