近年の製造業では、工場内の生産設備の稼働状況を適切に監視し、制御するシステムである「SCADA」が注目されつつあります。海外では既にSCADAの活用は進んでいるものの、国内ではそこまで導入が進んでいません。
近年注目されるようになった大きな要因は、AIやIoT、ロボットなどの技術を活用した「スマートファクトリー」です。スマートファクトリーを実現するためには、工場内の設備を監視・制御する仕組みが必要です。そこでSCADAを活用することにより、さまざまな機器のデータを集約し一元管理できます。しかし、同時に費用面やネットワークの負荷といった課題も発生しやすいため、注意して導入しなければなりません。
本コラムでは、SCADAとはどのようなものかについて解説いたします。搭載している機能やメリット・デメリット、日本国内で普及していない要因についても触れるため、ぜひ参考にしてみてください。
目次
SCADAとは
SCADAとは、「Supervisory Control And Data Acquisition」の略であり日本語では「監視制御システム」と呼ばれます。製造業の工場・生産設備などの大きな施設や、規模の大きいインフラを構成する装置などからデータを収集し、状況を監視します。
基本的には、ネットワークを介することで収集したデータを1カ所に収集することで、設備全体の監視・制御が可能です。一般的に製造業では生産する商品の種類や量が増えると、それに比例して工場・設備の規模は大きくなるでしょう。そうなれば、1つ1つの機器の状況を把握し制御することが難しくなります。
そこでSCADAを使うことで、施設の中に点在するさまざまな機器を適切に制御できるようになり、生産効率の向上につながります。製造業として生産効率を高め、機器のトラブルや不良品率を下げるためにも、SCADAが担う役割を押さえることが大切です。
SCADAを構成する要素・機能
SCADAは単一の機能ではなく、複数の機能が組み合わさっています。そのため、既に複数のシステムを利用している場合は、SCADAを使うことで一元管理を実現できるでしょう。ここでは、SCADAを構成する要素や機能についてご紹介します。
情報入力に関する機能
SCADAには、生産設備から収集した情報を入力する機能があります。機器を制御するシステムの情報の入り口であり、主に入力端末やセンサーなどの設備が入力を担当します。例えば、規模が大きな生産設備の場合、さまざまな場所にデータを取得するためのデバイスを設置しているでしょう。
また、従来では従業員が手入力により、各機器・設備の情報を手入力によりパソコンやタブレットに入力していました。近年ではIoT機器の発達により、従業員が各数値を直接入力する必要がなくなり、SCADAへ自動的にデータが送信され入力できるようになっています。
また、SCADAにはセンサーなどが自動で情報を検知・入力するパターン以外にも、今までと同様にタブレットなどの端末にマニュアルでデータを入力するパターンなど、さまざまな方法に対応しています。自社に適したデータの入力方法を採用することで、効率化を図りやすくなります。
SCADAは手入力にも対応していますが、より工場の生産効率を高めるためには、センサーなどのIoTデバイスから自動で入力できるように構築すると良いでしょう。
監視・制御に関する機能
SCADAには監視・制御機能を担うツールが搭載されています。そのことにより、入力によって収集されたデータを機械的・自動的に監視・制御します。このときの役割を担うツールは、PLC(Programmable Logic Controller/自動制御装置)とRTU(Remote Terminal Unit/遠隔監視制御装置)などです。
PLCとRTUの大きな違いは、自律的に監視制御を行うかどうかにあります。PLCが独立して監視制御を行う一方で、RTUはより上位のシステムから指示を受けて監視制御を行います。RTUは、監視制御に必要な情報を上位システムで保持することから、セキュリティ面ではPLCよりも堅牢だとされています。
パソコン単体でもデータを監視し、制御することはできますが、生産設備全体といった規模のデータの一元管理や機器の制御には適していません。PLCとRTUを組み合わせることにより、より高度な監視・制御を実現できます。
表示・管理に関する機能
さまざまな機器・設備から収集したデータを有効活用するためには、分かりやすく表示し適切に管理する必要があります。監視・制御に関しては自動に対応できたとしても、最終的なデータの管理は人の手によって行われるため、分かりやすく表示できなければ活用が難しくなるためです。
例えば、問題や異常が発生した際にアラートを出す機能や、データを見やすいグラフィックで表示する機能、課題・問題を可視化し原因を分析する機能などが求められます。このような機能は、HMI(Human Machine Interface)と呼ばれ、SCADAが出力する情報を視覚的にわかりやすく理解するのに役立ちます。HMIによって、SCADAを管理するオペレーターがシステム全体の様子を監視し、適切なタイミングで必要な対処を行うことが可能です。
また場合によっては、データを管理者が扱うパソコンだけでなく、現場の担当者が使うスマートフォンやタブレットなどのデバイスで表示・管理する機能も必要です。これらの機能を活用することにより、異常値が検出された、外部からの攻撃を受けた際には際にも迅速に状況を把握し対処できるでしょう。
通信基盤に関する機能
SCADAはネットワークを活用して動くシステムであるため、その通信基盤としての役割・機能があります。この通信基盤としての機能では、SCADA内部の設備間の通信や、外部との通信を実現します。ただし、SCADAを活用する際には自社の規格に適した通信基盤のものを採用することが必要です。
また、近年では次世代の通信技術である5Gを活用できるようになっており、通信の遅延が許されない機器・設備の場合に利用すると良いでしょう。製造業では将来的に5Gによる通信回線が普及していくと考えており、SCADAを始めとする生産設備の効率化に大きく貢献します。
SCADAの役割
SCADAは製造業を始めとするさまざまな工場やインフラ事業で使われているシステムです。システムの規模は大きく、導入する際には大がかりなものになるでしょう。有効活用するためにも、まずはSCADAの役割を適切に押さえる必要があります。ここでは、製造業におけるSCADAの役割についてご紹介します。
生産設備の監視・制御・データの取得
SCADAの主な役割は、工場などの生産設備に存在するさまざまな機器をネットワークで接続し、センサーなどが取得したデータを集約することです。これらの収集したデータを蓄積・分析することにより、効率良く機器を稼働させるように制御できるでしょう。
また、活用するSCADAによってはアラート機能やセキュリティ機能を含むものがあり、より効率良く工場の設備を管理できます。
スマートファクトリーの実現に貢献
近年では、AIやIoT、データ活用などにより省力化・自動化を実現する工場の「スマートファクトリー」への関心が高まっています。スマートファクトリーを構築するためには、工場内にあるさまざまな生産設備・機械をネットワークに接続させ、状況を可視化できなければなりません。
そこで、生産設備にSCADAを導入することにより、工場全体のデータを取得し機器の監視・制御を行えます。SCADAによって集約されたデータを可視化し一括管理することで、スマートファクトリーの実現に近づくでしょう。
DCSやPLCとの違い
SCADAと同様に、生産機械を制御できるシステムは今までも使われていました。代表的なものは、DCS(Distributed Control System)であり、日本語では分散制御システムと呼びます。特定の機器に対し、複数のコントローラーを接続し協調・統合した制御を行います。主に生産設備の圧力や流量、温度などの制御が可能です。
他にもPLC(Programmable Logic Controller)というシステムもあり、機械を自動的に制御できます。プログラミングにより機械が実行する動作を事前に組むことで、自動的な制御が可能になり効率良く設備をコントロールできます。
DCSとPLCのような制御システムとSCADAは、構成している要素や対象の規模が大きく異なります。DCSやPLCの主な役割は機器の制御ですが、SCADAは制御ツールとしてだけでなく、収集したデータの表示や通信の要素で構成されており、分析することによって経営計画などにも活用できます。
SCADAを活用するメリット
SCADAは複数の機能を併せ持ち、生産設備を適切に監視・制御・管理できるシステムです。そのため、SCADAを活用することにより、工場内のデータを収集・分析でき、既存のプロセスを改善しやすくなるでしょう。
さらに、複数の機能を持ったシステムであることから、環境を開発するコストの削減にも役立ちます。SCADAを使わずに同様の環境を構築するためには、それ以上の費用と手間がかかります。
例えば、PLCなどと通信するための制御システムを開発するためには、通信機能を始めとし状態を監視する機能やグラフィックに関する機能を実装する必要があります。これらの機能を搭載したシステムは、中央監視システムでも必要になるものであり、最初から作り込む場合には費用と時間が発生するでしょう。
その点、パッケージ化されたSCADAを活用すれば、これらの機能を汎用的に利用できるものであり、自社の環境に合わせてスムーズに開発できるでしょう。
SCADAのデメリット
SCADAを有効活用することにより、工場などの生産設備の状況を可視化でき、効率化を図れるでしょう。監視・制御以外のプロセスの改革を進めることで、スマートファクトリー化にも近づきます。ここでは、SCADAを利用する際のデメリット・注意点をご紹介します。
導入費用が高額になりやすい
SCADAは工場全体に関わる規模が大きなシステムです。そのため、本格的にSCADAを導入する場合には、環境を整備するための費用が高額になりやすいです。SCADAを導入・構築する方法によっても、発生する費用は変わりますが、監視・制御の対象になる機器が10点程度の場合は、それまで通りの運用の方が、コストパフォーマンスが良いケースもあります。
例えば、SCADAではなくDCSやPLCを使い、それ以外の場所は手作業で数値を取得するといった運用の方が、トータルの費用を抑えられる可能性があるでしょう。そのため、SCADAを導入する前に、発生する費用と得られる効果を試算し、費用対効果を検証しなければなりません。
特殊な機器には対応していない可能性がある
SCADAはさまざまな機器のデータを収集できますが、特殊な機器の場合は通信が行えない可能性があります。このような場合では、別でプログラムを組み、連携用のアプリケーションを開発して接続する必要があります。
近年では、IoT機器の発達により対応するデバイスが増えているものの、特殊な機器を使っている場合は連携できないことがあるため注意が必要です。
外部のシステムとの連携が難しい場合がある
製造業の生産システムは、外部からの脅威への対策としてネットワークから切り離された環境を構築しているケースが多いです。このような環境では、安全性は高まるものの外部との連携が難しくなるケースがあります。そのため、SCADAを導入しても工場内のみでしか活用できず、本社機能がある別の場所では活用できない可能性があるでしょう。
このようなネットワークから切り離された環境が構築されている場合、SCADAを外部で利用するためには、生産システムの見直しが求められます。利用するシステムによって既存の環境と連携しやすかったり、機能拡張によって対応できたりするものがあるため、選定時に注意しましょう。
SCADAが国内で普及していない要因
SCADAは生産設備全体を制御できるシステムであり、海外では広く普及しているものの、日本国内ではそこまで多くの企業に導入されているわけではありません。大規模な生産設備の場合であれば導入費用が大きくなることや、他にも制御系のシステムを活用しているケースが多い点が主な要因です。
実際に、制御系のシステムの導入が遅れている製造業では、「作業員が現場へ行き、各種数値を確認してメモを取る」という運用が多いです。専門的な知識が要求されるSCADAを使わずとも、目視によるデータ収集で対応できてしまう状態も、導入が遅れる大きな要因といえるでしょう。
先ほどの通り、SCADAよりも規模は劣るものの、PLCやDCSといった制御系のシステムの運用で効率良く稼働できるケースも少なくありません。しかし、近年では省力化・自動化を進めるスマートファクトリーへの関心が高まっており、同時にSCADAも注目されつつあります。
現代では、ネットワークの技術だけでなくAIやIoTの技術が発展しており、得られるデータの種類や量が増え、高度な機械の導入も進んできました。そこで、SCADAを活用し生産現場におけるあらゆるデータを集約・蓄積できれば、より高度なデータ活用の実現に近づきます。
昨今ではAIやIoTの活用が注目されがちですが、まずは現在の工場の状況を可視化し、データ活用を有効に進めるためにも、SCADAは有意義な存在といえるでしょう。
SCADAの特徴を把握し導入を検討しよう
従来、セキュリティ対策は情報やデータが蓄積されている基幹システムや業務用端末などに対して実施される傾向にありました。しかし、近年は工場やプラントなどに導入されたSCADAを始めとした制御システムがサイバー攻撃の標的にされています。制御システムへのサイバー攻撃に備えるためには、ITシステムを対象とした従来のセキュリティ対策とは異なる施策が必要です。ここでは、制御システムを対象としたセキュリティ対策について紹介しましょう。
制御システムとITシステムのセキュリティ対策の違い
制御システムとITシステムの違いは、ある程度セキュリティ対策が確立されているITシステムと異なり、制御システムのセキュリティ対策は技術的な面で遅れをとっている点です。
その理由は、従来、制御システムは工場などの施設内部に閉じた形で構築されることが多く、外部からのサイバー攻撃を想定しなくともよい状況が続いてきましたが、近年は汎用化されたソフトウエアの使用や外部とのシステム連携などで制御システムがインターネットにつながるケースが増えているからです。そのため、外部からの攻撃に晒される機会が増えているにも関わらず、十分な対策がとられないためにサイバー攻撃のリスクが高まっているのです。
制御システムのセキュリティ対策では、まずリスクが最も高い箇所の特定が求められます。例えば、インターネットとの接続がある箇所、外部からのデータ持ち込みが発生する工程などを全体から洗い出すことなどが必要になるでしょう。その上で、セキュリティ対策用のソフトウエア導入、データ持ち込み時のルール整備などリスク箇所に応じた対策を立案します。多くの企業ではセキュリティ対策にかけられる予算や時間には限りがあると考えられるため、優先順位をつけて対応することが重要です。
ガイドラインの制定
製造業のDXが進展するに従い、経済産業省もガイドラインの制定を進めており、その内容は個々の企業でセキュリティ対策を立案する際にも役立つでしょう。
例えば、制御システムにおけるリスク評価においては、「工場システムにおける サイバー・フィジカル・セキュリティ対策 ガイドライン(案) 第1版」に記載されている「セキュリティ要求レベル」の考え方が役立ちます。これは、業務の重要度と脅威を受ける可能性の二つの軸でサイバー攻撃によって生じるリスクを評価するものであり、セキュリティ対策を立案する際の優先順位を決める判断材料となるでしょう。
セキュリティ対策の立案は重要な活動であるものの、限られた人的リソースと時間の中でゼロから完璧な対応策を検討することは現実的ではありません。経済産業省のガイドラインを始め、国内外に存在するガイドラインを活用しながら、自社に適したセキュリティ対策を検討するのがよいでしょう。
SCADAとエッジコンピューティング
エッジコンピューティングとは、ネットワークの技法の1つであり、コンピュータネットワークのエッジ部分でデータを処理します。従来のクラウド技術では、全ての情報をクラウドサーバーに集約するため、膨大な処理によりネットワークの負荷が大きくなりやすいです。そこで、一度エッジと呼ばれる端末で処理することにより負荷を軽減します。
SCADAを利用した場合にも、工場の規模が大きくなりデータを収集するためのセンサーといったデバイスが多くなれば、情報の処理量も増えるため負荷は大きくなるでしょう。実際に、スマートファクトリー化を進めることにより、データの処理速度は新しい課題として顕在化しやすいです。
特に、スマートファクトリー化を進める中でクラウド環境を活用する場合、クラウドから現場・現場からクラウドといったようにデータが往復することになり、処理速度の低下によってタイムラグが発生しやすくなります。
このような状態では、データ活用を進めにくくなるだけでなく、高度な機器を導入してもパフォーマンスを発揮できません。このような状況では、SCADAを活用して監視・制御を行っていても、対処に遅れが発生する可能性があるでしょう。
この課題の解決策となり得るものがエッジコンピューティングです。クラウド環境に集約するのではなく、生産の現場に近い環境に分散して処理することで、機器のパフォーマンスの低下を抑えられます。このようにSCADAを導入する際には、エッジコンピューティングも合わせて検討することが重要です。
SCADAの特徴を把握し導入を検討しよう
SCADAは工場内のさまざまな機器の状況を可視化し、適切に制御できます。導入し、有効活用することによって、現状の課題が見えやすくなるだけでなく、トラブルや異常が発生しても迅速に対応できるでしょう。さらに、各種機器のデータを集約し一元管理することで、データ活用も加速します。
ただし、工場の規模が大きくセンサーやIoTといった機器を多く採用すると、処理するデータ量が膨大になり、ネットワークを圧迫する恐れがあります。特にクラウドを活用した環境を構築している場合は、膨大な量のデータにより負荷が大きくなり、送受信に遅延が生じる可能性があります。このようなケースでは、エッジコンピューティングも同時に検討しましょう。
SCADAは既存の環境に適用しても適切に監視・制御を行えますが、パフォーマンスを最大限発揮するには、工場全体のシステム環境の見直しが必要です。まずは、SCADAの特徴を押さえ、自社に適しているかどうかを考えてみると良いでしょう。
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