EPDとは?導入による3つのメリットや事例、注意点も解説

製造業を取り巻く環境は、グローバルな規制強化とESG投資の拡大により大きく変化しています。

取引先や投資家から環境性能の開示を求められる場面が増え、客観的なデータに基づく情報提供が競争力を左右する時代になりました。

このような背景のもと、国際規格に準拠した環境情報開示の手段として、EPDが注目を集めています。

しかし、具体的にどう活用すればよいのか、導入には何が必要なのか、十分に理解している経営者は多くありません。

この記事では、製造業の経営者が知っておくべきEPDの基礎知識から、導入メリット、実際の活用事例、そして注意すべきポイントまで、実践的な情報を詳しく解説します。

目次

  1. EPDとは?
  2. 製造業でEPDが注目される3つの理由
  3. EPD導入による3つのメリット
  4. 製造業におけるEPD活用事例3選
  5. EPD作成の5つのステップ
  6. EPD導入時に注意すべき3つのポイント
  7. EPDの今後の展望
  8. まとめ

EPDとは?

EPDの説明

EPDは、Environmental Product Declarationの略称で、日本語では「環境製品宣言」と呼ばれています。製品やサービスがライフサイクル全体を通じて環境にどのような影響を与えるのかを、数値で示した文書のことです。

ライフサイクル全体とは、原材料の調達から製造、使用、廃棄やリサイクルに至るまでのすべての段階を指しています。

EPDは国際規格ISO14025に準拠した「タイプIII環境ラベル」として位置づけられており、第三者機関による検証を受けた信頼性の高い環境情報となります。

温室効果ガスの排出量だけではなく、

  • 水資源の使用量
  • 大気汚染
  • 資源枯渇

などの環境指標を、同基準で評価できる点が大きな特徴です。

企業が独自に環境への配慮を主張するだけでなく、客観的なデータとして環境性能を示せるため、取引先や投資家、消費者からの信頼獲得につながります。

製造業でEPDが注目される3つの理由

製造業においてEPDへの関心が高まっている背景には、国際的な環境規制の強化や投資環境の変化、そして顧客ニーズの変化があります。

以下の3つの理由について順番に解説していきます。

  • 理由1:グローバル市場での取引要件化
  • 理由2:投資家からの環境情報開示圧力
  • 理由3:顧客の環境意識向上

欧州や米国を中心に、公共調達においてEPDの提出を求める動きが拡大しています。

特に建材や電子機器などの分野では、環境活動に取り組む企業に対して具体的なメリットが得られるよう、調達基準が整備されつつあるのが現状です。

グリーンビルディング認証であるLEEDやCASBEEなどでは、EPD取得製品が優先的に選ばれる傾向が強まっており、サプライチェーン全体で環境配慮を求める企業との取引機会も増えています。

海外市場では環境規制への適合が製品輸出の条件となるケースが増えているため、EPDを取得しておくことで現地の環境基準をクリアしやすくなるでしょう。

複数市場への対応を効率化し、認証コスト・時間を削減できる点も見逃せません。国際的な取引を継続・拡大するためには、EPDが不可欠な要件になりつつあります。

理由2:投資家からの環境情報開示圧力

ESG投資の拡大に伴い、投資家は企業の環境パフォーマンスをより重視するようになっています。

EPDは第三者検証済みの客観的データであるため、投資家に対して環境への取り組みを明確に示すことが可能です。企業の非財務情報として環境負荷を可視化できることから、ブランドの信頼性向上・ESG評価の改善につながります。

資金調達の場面においても、環境対応が進んでいる企業として評価されやすくなるため、優位性を確保できるでしょう。自社の環境データを透明性高く開示することで、長期的な企業価値の向上が期待できます。

理由3:顧客の環境意識向上

BtoB取引において、調達担当者が環境配慮製品を選択する動きが広がっています。

調達基準に環境評価項目が追加されるケースが増えており、環境データの透明性が企業選定の決め手となる場面も多くなりました。

EPDは国際基準の環境ラベルとして世界中で使用されており、信頼性・認知度が高いという特徴があります。

消費者にとっては、環境に配慮した製品やサービスを選ぶ際の指標となり、環境意識の高まりや消費行動の変容につながる大きなポイントです。

取引先や最終消費者からの信頼を得るためにも、EPDの取得は有効な手段となるでしょう。

EPD導入による3つのメリット

EPD導入によって、製造業の経営者は市場での競争力向上や自社の環境負荷の把握、そして企業ブランドの価値向上といった多面的なメリットを得られます。

以下の3つのメリットについて順番に解説していきます。

  • メリット1:市場競争力の向上
  • メリット2:自社の環境負荷の見える化
  • メリット3:企業ブランド価値の向上

メリット1:市場競争力の向上

EPD取得により、環境配慮製品としての差別化を実現できます。

グリーンビルディング認証や公共調達での優先選定により、新規取引先の開拓機会が生まれるでしょう。既存顧客との関係強化にもつながり、受注拡大が期待できます。

海外市場参入時には、EPDを事前に取得しておくことで規制対応コストを削減でき、スムーズな市場参入が可能です。

環境データを営業資料や提案書で活用することで、競合他社との明確な差別化ポイントを創出し、価格競争からの脱却も図れます。

メリット2:自社の環境負荷の見える化

EPD取得のプロセスでは、製造プロセス全体での環境負荷を詳細に把握することになります。

この過程で改善ポイントが明確になり、エネルギー効率の改善や原材料使用の効率化につながるでしょう。製造プロセスの各段階で無駄を見つけやすくなるため、コスト削減効果も期待できます。

実際に、EPD取得企業の多くが年間でのコスト削減効果を報告しています。

環境負荷の見える化は、継続的な環境改善活動の基盤となり、企業の持続可能な成長を支える重要な要素です。

メリット3:企業ブランド価値の向上

EPDは第三者検証を経た客観的な環境情報であるため、グリーンウォッシュ(見せかけだけの環境配慮)を回避できます。ISO規格に沿った数値データを公開し、検証員によって確かめられているため、客観的な裏付けがあるのです。

環境先進企業としての認知を獲得することで、採用活動での訴求力も強化されるでしょう。ステークホルダーからの信頼獲得は、企業の社会的評価を高め、長期的なブランド価値の向上につながります。

環境コミットメントに信憑性を与えることで、業界内での健全な競争を促進し、自社の存在感を高められます。

製造業におけるEPD活用事例3選

製造業では、さまざまな業種でEPDが活用されています。

3つの事例について順番に見ていきましょう。

事例1:自動車・機械部品メーカーのサプライチェーン透明化

自動車・機械部品メーカーでは、サプライチェーン全体でのCO2排出量把握が求められるようになっています。

EPDを活用することで、製品のライフサイクル全体の環境影響を定量的に把握でき、サプライヤーとの協業による製品CO2排出量の算定が可能になりました。

透明性の確保により、第三者の検証を経たデータを公開すると、顧客や取引先からの信頼を得られます。

調達担当者や消費者が環境性能を比較・選択できるようになり、サプライチェーン全体での環境配慮の取り組みが見える化されています。

これにより、完成車メーカーからの評価向上や新規受注につながる効果が報告されています。

事例2:電機・電子機器メーカーの製品環境情報開示

電機・電子機器メーカーでは、グローバル市場での環境規制対応が重要課題となっています。

EPDを取得することで、欧州や北米市場への輸出時に必要な環境情報を効率的に提供でき、規制対応の負担軽減が実現しました。

電子機器や化学製品など幅広い分野で第三者認証機関による審査登録が可能であり、国際的に通用する環境情報の開示が進んでいます。

製品の環境性能パスポートとして活用することで、環境意識の高い顧客層へのアプローチが可能になり、新たな市場開拓にもつながっています。

事例3:建材・住宅設備メーカーのグリーンビルディング対応

建材・住宅設備メーカーでは、グリーンビルディング認証への対応が競争力の鍵となっています。

EPDを取得した製品は、LEEDやCASBEEなどの認証取得を目指す建築プロジェクトで優先的に採用される傾向があります。

窯業系サイディングやスレート屋根材などの建材分野でEPD取得が進み、環境認証ラベルとして顧客への訴求に活用されています。

公共調達においても環境配慮製品として評価されやすくなり、受注機会の拡大につながっています。

専門ページを作成してステークホルダーに対して環境性能を訴求する企業も増えており、差別化戦略として効果を発揮しています。

EPD作成の5つのステップ

EPD作成には、PCRの確認からLCAデータの収集、第三者検証、登録まで、段階的なプロセスがあります。

以下の5つのステップについて順番に解説していきます。

  1. 対象製品の選定
  2. 製品分類規則の確認
  3. LCAデータの収集と分析
  4. 第三者検証の実施
  5. EPD登録と公開

ステップ1:対象製品の選定

EPD作成の最初のステップは、どの製品を対象とするかを決定することです。市場性と環境負荷の両面から優先順位をつけ、主力製品または新製品から着手すると効果的でしょう。

顧客や取引先からの要求が高い製品、あるいは環境負荷の大きい製品から取り組むことで、EPD取得の効果を最大化できます。

社内リソースを考慮した現実的な計画を立てることも重要です。

初回は一製品から始め、ノウハウを蓄積しながら段階的に対象製品を拡大していく方法が推奨されます。経営判断として、投資対効果を見極めながら優先順位を決定していきましょう。

ステップ2:製品分類規則の確認

次のステップでは、PCR(Product Category Rule)と呼ばれる製品分類規則の確認を行います。PCRとは、製品種別ごとのLCA算定と宣言の基本ルールを定めたものです。

まずは自社製品に該当する既存PCRが存在するかを確認し、利用可能なPCRを探すことから始めます。

既存PCRをそのまま利用できる場合、対象製品範囲の拡張が必要な場合、あるいは新規にPCRを策定する必要がある場合など、状況に応じて対応方法を検討します。

業界団体やEPDプログラムの運営機関への問い合わせを通じて、適切なPCRを特定していくことが大切です。

既存PCRがない場合の対応方針についても、この段階で明確にしておく必要があります。

ステップ3:LCAデータの収集と分析

PCRが確定したら、PCRに則ってLCA(ライフサイクルアセスメント)算定を実施します。

原材料調達から製造、使用、廃棄に至るまでの各段階で環境データを収集することになります。

サプライヤーへの協力依頼が必要となるため、事前に情報提供の目的や必要性を丁寧に説明し、理解を得ることが重要です。

社内各部門からのデータ統合プロセスでは、製品データや製造プロセスの一次データ、そしてデータ根拠となるエビデンスを整理します。

LCIデータベースやEPDなどの一次データ原単位も活用しながら、正確なLCA算定を行っていきます。

この段階が最も時間と労力を要する工程となるため、計画的に進めることが求められます。

ステップ4:第三者検証の実施

LCA算定とEPD作成が完了したら、第三者検証を受けます。

EPDプログラムに登録された個人検証員または検証機関による検証が実施され、検証申請書にエビデンス等の必要情報を記載して提出します。

検証プロセスでは、LCA算定結果の正確性やPCRへの適合性が確認されるでしょう。指摘事項があれば対応し、必要に応じてデータの修正や追加情報の提出を行います。

検証申請から合否判定までは、通常1カ月程度かかるのが一般的です。第三者検証に合格したもののみが、EPDとして利用可能になります。

ステップ5:EPD登録と公開

検証に合格したら、EPDプログラムのウェブサイトに情報を公開します。国際EPDシステムへの登録手続きを行い、公開する情報の範囲を決定します。

EPDは有効期限があるため、期限管理の体制を整えておくことが大切です。

営業活動やウェブサイトでの活用を開始し、顧客や取引先に対して環境性能を訴求していきましょう。

BtoBコミュニケーションや調達活動に利用することで、EPD取得の効果を最大限に引き出せます。

専門ページを作成してステークホルダーへの訴求を強化している企業も増えています。

EPD導入時に注意すべき3つのポイント

EPD導入にあたっては、コストやリソースの確保、サプライヤーとの連携、そして継続的な更新体制の整備が重要な課題となります。

以下の3つのポイントについて順番に解説していきます。

  • ポイント1:初期コストとリソース確保
  • ポイント2:サプライヤーとの連携体制構築
  • ポイント3:継続的な更新体制の整備

ポイント1:初期コストとリソース確保

EPD取得には一定の初期コストと人的リソースが必要です。データ収集と分析に必要な人員を適切に配置し、専任担当者を決めることが推奨されます。

特に複数の製品カテゴリがある場合、サプライヤーにとってコストが非常に高くなる可能性があるため、計画的に進める必要があります。

外部コンサルタントやLCA専門機関の活用も検討し、自社のリソース状況に応じた最適な体制を構築しましょう。段階的な導入により負担を軽減する方法も有効です。

まずは一製品から始め、ノウハウを蓄積しながら徐々に対象を拡大していくアプローチが現実的でしょう。

ポイント2:サプライヤーとの連携体制構築

LCAデータの収集では、サプライヤーからの環境データ提供が不可欠です。

サプライヤーに対して、環境データ提供の目的や自社の環境戦略を丁寧に説明し、協力を要請することが重要になります。

サプライチェーン全体で環境意識を共有し、長期的な協力関係を構築することで、今後のデータ更新や新製品のEPD取得もスムーズに進められるでしょう。

定期的な情報交換の場を設けるなど、サプライヤーとのコミュニケーションを密にすることが成功の鍵となります。

相互にメリットがある関係性を築くことで、持続可能なサプライチェーンの実現にもつながります。

ポイント3:継続的な更新体制の整備

EPDには有効期限があり、定期的な更新が必要です。

製品仕様が変更された場合には、その影響をEPDに反映させる必要があるため、影響評価プロセスを社内で明確にしておきましょう。

社内での更新責任者を定め、更新手順をマニュアル化することで、スムーズな更新作業が可能になります。有効期限の管理体制を整備し、期限切れによる失効を防ぐことも重要です。

継続的な更新を通じて環境改善の進捗を示すことで、ステークホルダーからの信頼をさらに高められるでしょう。

長期的な視点で体制を整えることが、EPD活用の成功につながります。

EPDの今後の展望

EPDは今後、製造業においてさらに重要性を増していくと予想されます。

欧州や米国を中心に、環境規制の強化と公共調達における環境基準の厳格化が進んでおり、EPDの提出を求める動きは世界的に拡大していくでしょう。

日本国内でもEPDへの関心が高まり、取得数が増加している状況です。

グローバルサプライチェーンにおいて、EPDは製品の環境性能を示す共通言語としての役割を果たすようになります。カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーへの取り組みが加速する中、EPDは企業の環境戦略を具体化し、ステークホルダーに対して透明性高く示すツールとして不可欠になるでしょう。

デジタル技術の発展により、EPDデータの収集や管理も効率化が進み、より多くの企業が取り組みやすい環境が整いつつあります。

製造業の経営者にとって、EPDは環境対応と事業成長を両立させる重要な経営ツールとして、今後ますます価値が高まっていくと考えられます。

早期に着手することで、将来的な規制対応や市場変化への準備を整え、競争優位性を確保できるでしょう。

まとめ

EPDは、製品のライフサイクル全体における環境影響を数値で示す国際規格に準拠した環境ラベルです。

製造業において、グローバル市場での取引要件化や投資家からの情報開示圧力、顧客の環境意識向上により、その重要性が急速に高まっています。

EPD導入のメリットと注意点を以下の表にまとめました。

項目 内容
主なメリット 市場競争力の向上、環境負荷の見える化、企業ブランド価値の向上
作成ステップ 対象製品選定→PCR確認→LCAデータ収集→第三者検証→登録公開
注意すべきポイント 初期コストとリソース確保、サプライヤー連携、継続的更新体制
活用分野 自動車部品、電機・電子機器、建材・住宅設備など

EPD取得により得られる効果は以下のとおりです。

  • グリーンビルディング認証や公共調達での優先選定
  • 海外市場参入時の規制対応コスト削減
  • ESG評価の改善と資金調達での優位性
  • 製造プロセスの改善とコスト削減
  • グリーンウォッシュの回避と客観的な環境性能の証明

製造業の経営者として、EPDは単なる環境対応ではなく、企業の競争力を高め、持続可能な成長を実現するための戦略的投資といえるでしょう。

初期段階でも段階的に取り組むことで、確実に効果を得られます。

まずは主力製品や新製品から着手し、ノウハウを蓄積しながら対象を拡大していく方法が推奨されます。早期着手により、将来的な規制対応や市場変化への準備を整え、競争優位性を確保することが可能です。

次のステップとして、自社の状況を踏まえた具体的な導入計画の立案をお勧めします。