長らく世界を牽引してきた日本の製造業。一方で、DXの趨勢に対応するには、スキルセットやデータの活用不足、伝統的な組織構造など多くの課題があり、これらを克服するための戦略構築が急がれています。そうした中、三菱マテリアル株式会社では2020年4月より、全社デジタル戦略「MMDX(三菱マテリアル・デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション)」をスタート。2022年10月には第2フェーズの「MMDX2.0」に移行して、ものづくり領域におけるDX推進に取り組んでいます。
今回、同社CIOの板野則弘氏と株式会社コアコンセプト・テクノロジーCTOの田口紀成による対談が実現。「事業会社にあるべきIT部門と未来」をテーマに、製造業におけるDXに焦点を当てて議論が交わされました。後編となる本記事では、未来のIT部門のあり方について、技術の進化がもたらす変革や、組織・人材の変化などが語られました。
DXの本質は「気づきの種」の提供
田口:ここまで、IT部門に求められる役割についてお話いただきました。次は、未来のIT部門のあり方にフォーカスします。現代では生成AIのような新技術が台頭しており、実際の変化も起こっています。こうした新たなテクノロジーが登場した際、IT部門がどのように変化し、どう適応していくとお考えでしょうか。
板野:過去を見ると、90年代には1人1台のパソコンが職場に導入され、それによって業務の進め方が劇的に変わりました。紙と鉛筆やワープロからパソコンへと移行し、グループウェアの登場によりコミュニケーションの手段もメールやチャットといった形に進化しています。これらの変化により、業務は以前より楽になったと思いますか?
田口:いいえ。むしろ仕事の量は増え、その質も高度化しています。ITの発展により、業務の内容、ボリューム、質が向上しているため、これに乗り遅れると企業の成長や競争力にも影響が出てしまいます。製造業においては、現場のオペレーターの数が減少しましたが、それに代わって新しい役割が生まれました。
板野:そうですよね。DXの効果は、主に2つに分かれると考えています。一つはITの延長として自動化や効率化が追求されること。そしてもう一つは、劇的に進化するITの活用によって新しい価値が生み出されることです。
DXの本質は、アナログからデジタルへの変換を行い、情報を可視化して多くの人々に「気づきの種」を提供することです。これにより人間は新しいものを生み出し、創造の世界へ進んでいきます。
ITの未来は「すべての技術は人間を幸せにするものである」という原則を基に、人がより高度な仕事をこなす手助けをするべきです。技術が進化しても主役は人であり、ITの役割は人を助けることであると私は考えます。