長らく世界を牽引してきた日本の製造業。一方で、DXの趨勢に対応するには、スキルセットやデータの活用不足、伝統的な組織構造など多くの課題があり、これらを克服するための戦略構築が急がれています。そうした中、三菱マテリアル株式会社では2020年4月より、全社デジタル戦略「MMDX(三菱マテリアル・デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション)」をスタート。2022年10月には第2フェーズの「MMDX2.0」に移行して、ものづくり領域におけるDX推進に取り組んでいます。
今回、同社CIOの板野則弘氏と株式会社コアコンセプト・テクノロジーCTOの田口紀成による対談が実現。「事業会社にあるべきIT部門と未来」をテーマに、主に製造業におけるDXに焦点を当てて議論が交わされました。
DX成功の鍵は“オーナーシップの移管”
板野:三菱マテリアルでは、4つの経営改革に取り組んでいます。グループ経営形態改革(CX)、人事制度・働き方の改革(HRX)、業務効率化、そしてDX戦略のMMDXです。当初のMMDXは事業系のテーマがメインとなっており、経営や事業の観点が強く出ていました。ですが、MMDX2.0では、より“ものづくり”を中心に据えたテーマに再編成しました。
田口: 板野さんは、2021年4月に三菱マテリアルへ参画されています。前職の三菱ケミカル時代のご経験も含めて、具体的にどのようにDXに関わってきたのかを教えていただけますか?
板野: 2022年10月にバージョンアップしたMMDX2.0には、私の意見やアイディアが多く反映されています。前職での経験も大いに生かしました。前職と今の仕事を比較することで「これは大事だな」と思う共通の気づきが見えてくるのですね。
一つは、プロジェクトのオーナーシップについてです。新しいプロジェクトを始める際、多くの企業が、はじめは専門家によるスペシャルチームを組んで推進していきます。しかし、いずれは事業部や現場といった各テーマの運用主体にプロジェクトのオーナーシップを移さなければなりません。DXを成功へと導くためには、運用段階まで見据えて計画を進める必要があります。
DXプロジェクト全般の特性として、初期フェーズでは多くのトライアルや失敗が許される場合が多い点が挙げられます。しかし、本格的な運用フェーズでの失敗は大きな損失を招く可能性が大きい。そのため、FS(フィージビリティ・スタディ)でしっかりと検証し、リスクを低減するプロセスが必要です。
このFSの段階において、オーナーシップの移管が重要になってくるのです。