DX推進の鍵は「Why(なぜ)」について語ること

2024年4月を目前に時間外労働の上限規制に関する対応を迫られた建設業界。DXが難しいとされる業界ですが、ゼネコンの清水建設がDXに取り組んでいます。

「DXエバンジェリストが斬り込む!」の第8回目はエバンジェリスト対談です。東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリストの福本勲氏が、清水建設 NOVARE DXエバンジェリストの及川 洋光氏を迎え、語り合いました。

清水建設の及川洋光氏、東芝の福本勲氏(2023年8月3日、東京都豊島区のCCT本社で
(左から)清水建設の及川洋光氏、東芝の福本勲氏(2023年8月3日、東京都豊島区のCCT本社で)
及川 洋光氏
清水建設株式会社 NOVARE
DXエバンジェリスト

大手航空会社に入社し、情報システム部門のシステムエンジニアとして空港のシステム開発プロジェクトを担当。1999年に大手ICTベンダーに移り、製造業向けソリューションのプロジェクトマネジメントおよびコンサルティングに従事し、50社以上のプロジェクトを担当。エバンジェリストとして、年間約180回のDX講演活動を実施。2021年10月に清水建設に入社し、今年9月より現職。DX推進のリーダーとしてデジタルツインなどの各種プロジェクトを推進中。
福本 勲氏
株式会社東芝 デジタルイノベーションテクノロジーセンター チーフエバンジェリスト
アルファコンパス代表
1990年3月、早稲田大学大学院修士課程(機械工学)修了。1990年に東芝に入社後、製造業向けSCM、ERP、CRMなどのソリューション事業立ち上げやマーケティングに携わり、現在はインダストリアルIoT、デジタル事業の企画・マーケティング・エバンジェリスト活動などを担うとともに、オウンドメディア「DiGiTAL CONVENTiON」の編集長を務める。また、企業のデジタル化(DX)の支援と推進を行う株式会社コアコンセプト・テクノロジーのアドバイザーも務めている。主な著書に「デジタル・プラットフォーム解体新書」「デジタルファースト・ソサエティ」(いずれも共著)がある。主なWebコラム連載に、ビジネス+IT/SeizoTrendの「第4次産業革命のビジネス実務論」がある。その他Webコラムなどの執筆や講演など多数。(所属及びプロフィールは2023年7月現在のものです)
*2人の所属及びプロフィールはいずれも2023年9月現在のものです。

目次

  1. ITベンダーからゼネコンへ 現場に触れて発見した「意外なこと」
  2. DXで意味性を追求するのはなぜか
  3. エバンジェリストが物語を紡ぎ、人を動かす
  4. パズルのピースを組み合わせて2024年問題に対処

ITベンダーからゼネコンへ 現場に触れて発見した「意外なこと」

——以前はITベンダーにお勤めでしたが、全く違う業界のゼネコンへと転身されました。どのような背景があったのですか。

及川氏(以下、敬称略) 前職のときもエバンジェリストではありました。会社にエバンジェリストの制度があって、試験を受けてエバンジェリストとなり、自分が取り組んだDXについて外部にアピールしていました。ただ、ベンダーとしてお客様のところに行ってDXに取り組むなかで、自分自身の中に疑問が湧いてきたのです。

私はお客様の課題解決や、ありたい姿を実現したいわけですが、自社製品だけでは解決できない場合があります。ただ、自社製品以外も含めた提案は、なかなか難しいですよね。お客様の課題を解決するうえで、どうしても限界があると思いました。

そんなときに、清水建設におけるDX推進リーダーへのオファーがあり、転機が訪れます。清水建設は現場を持っているため、自分が良いと思う方向にDXを進められると思いました。使用する側でもあるので、ベンチャー企業も含むさまざまな会社の製品を選べます。そこが一番良かったところです。さらにエバンジェリストとして、自分の言葉で取り組み内容を外に発信できることも大きかったですね。

福本氏(以下、敬称略) 僕も同じ社内ですが両方の立場を経験しているので、及川さんが言っていることはよくわかります。東芝に入社してまず、デジタルソリューションをやっている部隊に入りました。その後、東芝の分社化に伴って東芝デジタルソリューションズに転籍しました。東芝デジタルソリューションズはベンダーです。そのため、及川さんが富士通に対して仰っていたような立場で自社のソリューションを販売するのが仕事でした。その後、東芝のコーポレート(本体)に転籍して今はDXに関わっているわけですが、こちらはユーザー側の立場です。

——2人ともサポート側とDX推進側の両方を経験されているのですね。具体的に、どのような違いがありますか。

福本 ITベンダーは、自社のソリューションをどれだけ売ったかがKPIです。そのため、自社製のソリューションがなければ、ゼロベースで個別開発するなどして、何とか自分たちでやろうとします。でも、お客様の立場からすると全てをそのベンダーのソリューションでやるのが正解ではない場面もあります。ユーザー側からみれば当たり前のことですが、立場上、わかっていてもできないというジレンマもありますよね。及川さんはどうですか。

及川 いやもう、その通りですね。清水建設は施工現場を持っています。DXを進める現場の生々しい話をダイレクトで聞けるのは大きいですね。どんな課題があるのかも、よくわかります。

清水建設 及川氏
「ベンダー時代は、お客様の担当窓口が現場を担当しているので、現場に勝手に行かないで欲しいという風潮がありました」(清水建設 及川氏)

また、建設業界の現場に触れてみて予期せぬ発見もありました。意外にも、現場は予想以上にデジタルを進めていたのです。とくに驚いたのが、ベンチャーのソリューションを見事に使いこなしていることでした。建設業には、ビルを建てる建築部門と、高速道路やダムを作る土木部門がありますが、その両方ともがベンチャーの技術を比較的使っているのです。

大手は価格が若干高いかもしれませんが品質が良く、SE力やサポート力、コンサル力なども優れています。なぜ、そんなにベンチャーを採用するのか不思議でしたが、工期が関係しているのですね。ビルは早ければ1年、長くてもだいたい3〜4年で建ちます。そのビルを建てるプロジェクトの中で投資していきます。つまり、システムは最長でも3年ほど持てばいいのです。

これに対して、会社の基幹システムなどはずっと使い続けなければいけないので、安心できる大手にお願いするわけです。品質も良いので、10年20年と使い続けられます。基幹システムにベンチャーを採用して、買った1年後に倒産してしまったら困りますよね。しかし、建設現場はたった3年持てばいいのです。

しかも、営業にやって来るベンチャーの担当者は社長自身です。例えば、ある製品を現場でテストしたところ、不具合があったとします。そこを調整してほしいと伝えると、「わかりました!」と翌日には修正を完了してくれるのです。スピード感が違います。

DXで意味性を追求するのはなぜか