製造業への転職を成功させるためには、職種ごとの業務内容と必要スキルを理解することが大切です。あわせて「製造業内の業種の分類(何を製造する企業なのか)」も意識することで、自分に適性のある転職先を見つけやすくなります。
目次
【一覧】製造業の職種は大きく10種類。業務内容と必要スキル
製造業は私たちのもっとも身近な仕事といっても過言ではありません。食品・衣服・自動車・電子機器……生活に欠かせないあらゆる品物を製造・販売する仕事を指して、「製造業」と呼びます。
多様な商品を取り扱う製造業は職種も幅広く、企業ごとにその呼び名も業務内容もさまざまです。それゆえ、転職希望者からは「どの職種の求人が自分に向いているのかわからない」という声も耳にします。
そこで、ここでは製造業の職種を10種類に大別し、一般的な業務内容をご紹介します。求められるスキルとあわせて確認していきましょう。
【製造業の職種一覧】
商品企画:新商品のアイデアを生み出す職種
商品企画は、自社の新商品となる品物のアイデア・企画を生み出す職種です。市場調査や顧客ニーズの分析を元に、十分な利益を見込める新商品の構想を練ります。次代のヒット商品を自分の手で生み出せるかもしれないやりがいのある業務です。
新商品の開発では、競合他社に勝る新奇性・独自性を追求するのみならず、ビジネスとして成立させるための「需要」の有無も分析しなければなりません。そのため、数値から客観的にマーケットの現状・将来を判断できる「統計・データ分析」のスキルを持つ人材が重宝されます。
【必要スキル】
- 既存の常識にとらわれない「発想力」
- 市場を分析し、地に足の着いた計画を立てるための「統計・データ分析スキル」
研究開発:新技術や特許の開発、および実用化を担う職種
研究開発は、自社の強みとなる技術や特許を生み出す、あるいはその技術や特許を商品に落とし込む職種です。「基礎研究」「応用研究」「商品開発」の3種類に大きく分かれています。
- 基礎研究:新素材や新製法を探るなど、(現時点では)ビジネスでの活用法を決めていない研究
- 応用研究:基礎研究の成果を元に、ビジネスに活用できるよう実用化を進める研究
- 商品開発:応用研究の成果や商品企画のアイデアを元に、具体的な商品に落とし込む業務
基礎研究と応用研究はいわゆる「研究職」にあたり、特に理系の学部・大学院で学んだ方は専門知識を生かすことができます。
【必要スキル】
- 自社商品と関係する専門分野における「高度な知見」
- 5年、10年と長期的に研究を続けられる「忍耐力」
生産技術:製造ラインの改善や新技術の導入など、生産の効率化を担う職種
生産技術は、工場の製造ラインにおける改良策の立案や新機材・システムの導入など、「製品の生産に関する効率」を高めるための職種です。現場で扱いやすい治工具を用意したり、一部の作業をロボットにより自動化させたりと、コストを削減しつつ生産力を高める方法を検討します。
近年はDX推進やスマートファクトリー化の重要性が指摘されており、ITの知見を持つ生産技術者の必要性が増しています。後述の通り、なかには年収1,000万円前後を期待できる求人もあります。
【必要スキル】
- 現状の生産工程の問題を発見し、対策を考案する「課題解決力」
- アナログ業務をデジタル技術で効率化する「ITスキル」
生産管理:生産量のコントロールなど、生産スケジュールの管理を担う職種
生産管理は、営業が獲得した案件の納期やシーズンごとの商品需要を元に、最適な計画を立てて生産を進行させる職種です。「いつまでに、どの工場で、どの商品を、どれだけ生産するのか」を検討し、製品を遅滞なく顧客へ届けられるようにコントロールします。企業によっては、原材料の調達や保管も生産管理の仕事です。
生産管理が機能していなければ、必要な時期に製品を用意できずに商機を逃し、納期も守れず取引先の信頼を失います。先を見通しつつ労働力や資源を配分し、各部門と連携を取りつつ進捗(しんちょく)を管理するなど、高度なマネジメント・コミュニケーションスキルを持つ人材が求められています。
【必要スキル】
- 生産工程全般を管理し、突発的なトラブルにも対処できる「マネジメントスキル」
- 夢物語でない計画を立て、着実に進行させるための「商品・製造現場に関する知識」
品質管理:商品の品質(クオリティ)を担保する職種
品質管理は、製造された商品が規格を満たしているかなど、納品物のクオリティを確認する職種です。生産管理が「生産工程の進行」を取り扱うのに対して、品質管理は純粋に「製品のクオリティ」に目を向けます。常に一定の質を担保するためのチェック手順を考案したり、製品不良のクレームが発生した場合には原因を探り対処したりと、商品のクオリティを担保する作業全般を担います。
自動車や医薬品など、製造業では人命を左右する品物も取り扱います。品質管理に問題があれば、リコールにより経済的な損失を被ったり、重大事故によりブランドイメージが毀損されてしまったりします。したがって、企業の長期的繁栄をも左右する、責任とやりがいのある職種です。
【必要スキル】
- 小さな問題も見て見ぬふりをしない「責任感」
- 将来起こり得るトラブルを予測し、事前に対処する「リスクマネジメント能力」
製造:実際に商品を作り上げる製造業の根幹となる職種
製造は製品の組み立て・研磨・溶接・塗装・梱包(こんぽう)など、実際に商品を作り上げる職種です。いわゆる現場の人員にあたり、生産技術と生産管理の考案した手順・計画によりモノづくりを行います。
製造業の職種の中で、もっとも企業ごとの特色が出やすいのがこの製造です。自動車メーカーであれば車、食品メーカーであれば食べ物と、自社製品を直接取り扱うため、「何を作っている企業なのか」が業務に強く影響します。そのため、製造への転職を目指す際には、後述する「業種(分類)」も意識することで、より自分に向いた企業を見つけやすくなります。
【必要スキル】
- ルーティンワークを正確にこなし続ける「集中力」
- 実際に体を動かしつつ作業をこなす「基礎体力」
営業:案件の獲得や顧客のアフターフォローを担う職種
営業は、新規顧客の獲得や既存顧客との関係性の維持を行う、取引先との窓口となる職種です。各企業の方針にもよりますが、主にBtoB(Business to Business:企業間取引)の役割を担い、業務内容は大きく「新規営業」と「ルート営業」の2種類に分類できます。
- 新規営業:自社との取引実績のない相手に対する不定期な営業。新規顧客の開拓。
- ルート営業:既存の顧客先を訪れて不満や要望を聞き出す定期的な営業。既存顧客との関係維持。
どれほど優れた製品を作り上げていようとも、購入を希望する相手がいなければビジネスとして成り立ちません。継続的な納品先を見つける営業は、製造業者の存続を左右し成長を支える、花形ともいえる仕事です。
【必要スキル】
- 顧客に自社製品の魅力を伝えるための「プレゼンテーション能力」
- 社内の各部門とも円滑なやり取りを行うための「コミュニケーション能力」
広報・マーケティング:製品やブランドのイメージの向上を担う職種
広報・マーケティングは、自社製品の認知度を高める、消費者からの共感を獲得するなど、製品・ブランドのイメージ向上を担当する職種です。Web広告を出す、SNSで公式アカウントを運用する、テレビコマーシャルを打つなど、業務範囲は多岐に亘ります。
営業と広報・マーケティングは、製品やブランドを魅力的に見せる点で似ていますが、ターゲットが異なります。営業は特定の取引先(候補も含む)と直接やり取りを行うのに対して、広報・マーケティングはまだ見ぬ不特定多数の相手へとアピールを行います。
【必要スキル】
- 市場における自社の立ち位置を客観的に把握できる「統計・データ分析スキル」
- 製品・ブランドのイメージを効果的に向上させる施策を立案する「企画力」
法務:法規制の確認や紛争対応など、法のスペシャリストとなる職種
法務は、国内外の法規制の確認や契約締結に関する諸業務、万が一の紛争対応など、法にまつわる業務を担当する職種です。自社製品や労働環境が法に触れていないか確認したり、NDA(秘密保持契約)などの契約書作成を担ったりします。
一般的に、製造業の法務部門の社員募集では弁護士資格を所有していない方も採用されます。採用後に法的知識を学んでいく意欲は必要ですが、未経験からの転職も可能です。
【必要スキル】
- 法的問題を発見し解決策を提案する「課題解決力」
- 海外企業とのやり取りや現地の法律確認をスムーズに行える「英語力」
人事・総務:人材の採用や教育、庶務業務まで幅広い仕事を行う職種
人事・総務は、社員の雇い入れから研修の実施、各種事務仕事(庶務業務)まで、幅広く仕事を担う職種です。厳密には人事と総務の役割は異なりますが、「人事総務職」や「人事総務課」などと一つの役割としてよく募集されています。
人事・総務がこなす業務は広範で「企業活動をスムーズに進めるための作業全般」が職務範囲といっても過言ではありません。縁の下の力持ちとして臨機応変に対応できる柔軟性のある人材が重宝されます。
【必要スキル】
- その時々の多様な業務に抵抗なく取り組める「アドリブ力」
- 各専門部署と円滑に連携を進められる「コミュニケーション能力」
製造業は職種と同様に「業種(分類)」も重要
製造業の転職先を見つける際には、ここまでにご紹介した職種に加えて「業種(分類)」も重要となります。一口に製造業といっても、取り扱う品物によって労働環境も慣習も異なるためです。
製造業の業種を把握するためには、総務省の「日本標準産業分類」と経済産業省工業統計課の「産業3類型」が役立ちます。
前者の日本標準産業分類は、産業別の公的な統計データを出す際に活用される表です。製造業は以下の通り細分化されています。
【日本標準産業分類】
09 食料品製造業
10 飲料・たばこ・飼料製造業
11繊維工業
12 木材・木製品製造業(家具を除く)
13 家具・装備品製造業
14 パルプ・紙・紙加工品製造業
15 印刷・同関連業
16 化学工業
17 石油製品・石炭製品製造業
18 プラスチック製品製造業(別掲を除く)
19 ゴム製品製造業
20 なめし革・同製品・毛皮製造業
21 窯業・土石製品製造業
22 鉄鋼業
23 非鉄金属製造業
24 金属製品製造業
25 はん用機械器具製造業
26 生産用機械器具製造業
27 業務用機械器具製造業
28 電子部品・デバイス・電子回路製造業
29 電気機械器具製造業
30 情報通信機械器具製造業
31 輸送用機械器具製造業
32 その他の製造業
※番号は産業分類コード。上記は最新の2013年第13回改定分。2024年4月に新たな改訂が予定。
(出典:総務省「日本標準産業分類(平成25年10月改定)(平成26年4月1日施行)」より引用)
そして後者の産業3類型は、上記の日本標準産業分類を3種類に大別し、わかりやすくまとめたものです。それぞれの類型について知ることで、自分に合った製造業の業種を見つけやすくなります。
基礎素材型産業:
作り上げた製品が、次の加工組立型産業や生活関連型産業でさらに加工されて私たちの手元に届く、その名の通り「基礎となる素材」を手がける分類です。自身の作り上げた素材がときには想像もできない形で人々の生活を豊かにする、やりがいのある業種といえます。
加工組立型産業:
加工組立型産業は「自動車、テレビ、時計などの加工製品を製造する産業(引用:経済産業省工業統計課)」です。基礎素材型産業の成果品を組み立てていき、私たちの手元に届く製品として作り上げます。
「いつも利用しているスマートフォンを自ら作ってみたい」「子どものころから自動車が大好きで、車メーカーに入ってみたかった」など、自分の夢を叶えやすい業種です。興味関心のある内容から企業選びを進めることで、意欲的に働ける転職先を見つけやすくなります。
生活関連型産業:
生活関連型産業は「飲食料品、衣服、家具等の衣食住に関連する製品等を製造する産業(引用:経済産業省工業統計課)」です。
私たちの生活に欠かせないアイテムを作り上げる製造業者であり、消費者が名前を直接目にする機会も多いのが特徴です。転職により誰もが名前を知る憧れの大企業の社員になりたい。そんな目標を持つ方にも向いています。
【転職希望者向け】製造業の職種に関するQ&A
最後に、転職希望者が知っておきたい、製造業の職種に関するよくあるQ&Aを見ていきましょう。
そもそも製造業は転職先としておすすめの業界?
2023年現在、製造業は転職先としておすすめの業界です。製造業は他産業と比べて正規雇用者の割合が多く、2022年版ものづくり白書によれば68.7%に達しています(全産業は53.6%)。将来を見据え、正社員として安定した働き方を実現したい方にぴったりです。
また、製造業は国内GDPの約2割を例年占めている日本最大の産業でもあります。これまでにも、オイルショックや感染症の流行のような深刻な不況を乗り越えてきました。今後も日本の景気をけん引する存在として活躍が期待されており、その将来は明るいと予想されています。
年収はどの程度期待できる?
国税庁の「民間給与実態統計調査結果(令和3年度)」によれば、製造業の年間平均給与は516万3,000円でした。同調査による全業種の年間平均給与は443万3,000円であり、製造業は年収の高い傾向にある業界だといえます。
また、近年の製造業では、スマートファクトリー化やDX推進に欠かせないIT人材の必要性が増しています。ITスキルを持つ転職希望者向けに年収1,000万円前後の求人を出す企業も登場しており、高収入を目指したいデジタル人材の転職先としてもおすすめです。
製造業では職種・業種による検討が転職先を見つける第一歩
この記事では、製造業の職種一覧と業種分類、転職希望者向けのよくあるQ&Aなどをご紹介しました。
日本最大の業界である製造業には、多くの人にとって転職先候補となる求人が多く、職種と業種から数を絞り込んでいくことが大切です。職種ごとの業務内容と必要スキルを押さえ、自分の力を生かせる仕事をぜひ探してみてください。
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